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「では、娘をよろしく頼みますぞ」
夕暮れの丘の上に停まった馬車の前でベルツ子爵はグラハムに向かい頭を下げる。
「そんな、頭を上げてください!」
いつになく甲斐甲斐しく頭を下げるベルツにグラハムは少々狼狽した様子で言った。
フランディルケは静かに佇み、ただただ頭を下げ続ける父を見つめていた。
ベルツはグラハムに向かい、耳打ちの合図を立てる。
それに従いグラハムはベルツに近づいた。
「どうしました? 子爵」
「フランディルケとはもう話したのか?」
「ええ、話しました。とても上品で、それでいて奥ゆかしい立派な貴族令嬢でありました。流石ベルツ子爵の娘だと、そう思いました」
それを聞いたベルツは苦虫をかみしめた様なそんな顔をして、頭を抱えた。
「すまない……。本当にすまないグラハム……許しておくれ」
「?」
いきなり様子を変えたベルツにグラハムは戸惑いの視線を送った。
「何故謝るのですか……?」
「んむう……いや、今に判る。ただ、まあ貴族令嬢の見本と言ったら見本であるが……今に判る」
そういってベルツは馬車に乗り込み、それ以上は何も言わず去っていった。
けたたましい足音を残して去っていった馬車を見送った瞬間、その声は聞こえた。
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