ACT,2

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翌朝、テニス部用に設定してある着信音が耳元で鳴り響いて目が覚めた。 時刻は朝の9時。 携帯の通話ボタンを押すと、やかましい声に驚いて危うく切るとこだった。 『丸井先輩!?』 「……んだよぃ、朝っぱらから…。」 『今どこっスか?…てか、その声のトーンの低さから、今起きたって感じっスね。』 「おまえ、頭いいな。」 『でしょ!天才の丸井先輩に言われると説得力あるな…ってちがーう!!早く起きて支度してください!!先輩のことだからと思って電話したらこれっスよ!…』 こいつ本当に俺のこと先輩だと思ってんのかってくらいに、あることないこと(大半が事実だけど)グチグチ言われるもんだから軽くあしらって電話を切り急いで準備を済ませた。 外はここ最近で久しぶりの快晴だった。春の気候が感じられてあったかい。 腕時計を見ると9時40分。こっから駅まで走って10分てとこか、全然余裕じゃん。 ウォーミングアップ程度に走り出すと気持ちが良い。風も少しあるから過ごしやすそうだ。 あと少しというところで、背丈が俺の肩くらいしかない小さい女とすれ違った。 栗色の長い真直ぐな髪が風に吹かれていいにおいがした。顔もめちゃくちゃ小さくて体は細身、モデル並みにスタイルがいい。 通り過ぎた後も何でか振り返っちまった。 すれ違う人なんて普段なら気にもとめないはずなのに、その時だけは目が追った。 何でかっていうと、それは。 ほんの一瞬だったと思う。確かかどうかも怪しいほど、ほんの一瞬…なんつーか、瞬きするくらいの一瞬感。 目が合った………ような気がしたんだ。 気のせいって言われりゃそれまでだけど、でもまあ俺にはそう思えた。 大きな瞳、全部を見透かすような澄んだ綺麗な瞳。…覚えてるってことはやっぱ目合ったんかな。 ふと赤也の顔を思い出す。 やべー、また口うるさく文句言われちまう。 気持ちを切り換えて再び前を向いて走り出した。 駅はすぐそこ。 見覚えのある黒髪がいつもみたいにでっかく手を振っている。近寄って立ち止まり、再び後ろを振り返る。 姿が見える訳もない。 「どうかしたんスか?」 「…いや……行くか。」 「はいっ!」 電車の入るアナウンス。 やっぱりあいつはこっちを振り向いて、寂しそうな顔をして歩き出す。もちろん俺は、何も知らなかった。
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