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「バイルシュミット卿!」
耳障りな声で名を呼ぶと同時に、将校服を着た壮年の男が俺の天幕に入って来た。
更に増した苛立ちを押し殺し、俺は何でもない顔で振り返ってやる。
椅子に座ったまま、立ちはしないが。
「なんだ、レンデュリック」
そいつは軍帽を目深に被り、眼鏡の奥の瞳に苦々しさを映してこちらを睨んでいる。
ロタール・レンデュリック上級大将──このフィンランド駐留部隊の指揮官だ。
「『なんだ』はこちらの台詞ですぞ、卿!スールサーリの事は聞いておりましょう!」
「───で?」
「進撃するのです!フィンランドは最早敵国でありますぞ!!のらくらと戦線を後退させている場合ではありますまい!」
敵の味方は敵──か。
確かに戦場の道理ではある。
おかげで今じゃ、連合に降伏したイタリアと
………ハンガリーも、敵だ。
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