Deep Inside Of...

一

　僕の思考を遮るように、玄関の呼び鈴が鳴った。今家にいるのは僕一人だから、僕が出なければならない。何となく嫌な予感がした。

　玄関の扉を開けると、そこに見えたのは親友の顔だった。途端に僕の鼓動が早くなり、顔が熱くなる。僕が要件を尋ねると、彼は学校に置いてきた僕の鞄を差し出した。先生に頼まれたらしい。僕は何とか笑顔を作って礼を言った。すると彼も柔らかい笑顔を見せた。
　僕は混乱した。今ここにいる人物と、昼間僕を罵っていた人物は、本当に同じなのだろうか。もしかしたら別人なのではないか。単なる僕の勘違いだったのではないか。何より、現実に目の前にいるこの男が、僕を嫌っているようには見えない。僕にはどちらとも断定することができなかった。

　親友の瞳の澄んだ黒が、澱んだ沼のように見える。そこには歪んだ僕が映っていた。その瞬間、僕の意識はその暗い淵に吸い込まれた。粘り気を含んだ泥が僕の手足に絡みつく。這い出ようともがいても、体は深く沈んでいく。僕には何もできなかった。