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 僕はその時図書室の本を探していた。探すとは言っても何か目的があるわけではなく、退屈な昼休みの暇つぶしというのがが本当のところだった。ハードカバーの厚い背表紙を眺め、気になるものがあればそれを手にとって適当なページをめくる。話の内容は分からなくても、ただ精錬された文章を読むことを楽しんだ。その中に惹かれるものがあれば、椅子に座って時間をかけて読む。それが僕の昼休みの過ごし方だった。  図書室の隅にある、本棚に挟まれた隙間が僕のいつもの居場所だった。そこには古い百科事典や文学小説が並んでいて、ほとんど誰も寄り付くことはない。床を叩く足音や煩わしい話し声を日に焼けた紙が吸い取り、同じ部屋にいてもまるで別な空間にいるような気分になる。  窓に目を向けると、外では雨が降っていた。そろそろ梅雨入りしていてもおかしくない季節だ。いつもは生徒で溢れている校庭を、今は雨粒が乗っ取っている。今頃どこかの教室で、誰かが溜め息を吐いているかもしれない。僕はそういう生徒をたくさん知っている。
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