6/16
前へ
/54ページ
次へ
 それから間もなく昼休みの終わりを知らせる鐘が鳴った。教室に戻らなくてはならない。だがそこにいる親友の姿を想像すると、足が動かなかった。僕は壁に面した本棚に寄りかかり、腰を下ろした。この位置なら誰にも見られることはないはずだ。背後の本から伸びる紐が、頬をくすぐった。  目を瞑ると、親友の言葉が残響となって胸を突く。たまらずに目を開けると、目の前に自分が手に取っていたはずの本が落ちていた。僕は手を伸ばしてそれを開き、もう一度読書にのめり込もうとする。だが目は紙の上を滑るばかりで、内容は全く頭に入らなかった。仕方なく僕は本を傍らに起き、息を吐いた。とにかく落ち着かなければならない。  口の中がひどく苦かった。僕は粘つく唾を飲み込み、焦りや混乱と一緒に体の奥へ追いやろうとした。そうするうちに鼓動も鎮まり、今まで感じていたあらゆる感情が溶けていくのが分かった。敢えて親友の言葉を反芻してみても、それが再び僕を突き刺すことはなかった。それが慣れによるものなのか、それとも感覚が麻痺しているためなのかは分からなかった。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加