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「……そう、何でもないなら…とりあえず安心だね」
遼一に微笑む詩音の顔はどこか淋しそうだった。
その表情が一瞬『あの日の湊』と重なって見えた。
「あ、うん……そうだね」
そんなことはないと、遼一の心の中では否定仕切れなかった。
それと同時に遼一は思った。
この頃の詩音にも何かあったのではないだろうか、と。
(これは今、考えるべきじゃないよな……それよりも今は……)
「り…り、遼ちゃん?」
考え事をしていると詩音が彼の名を呼んだ。
「え?」
詩音を見ると、彼女は顔を赤くしてモジモジしている。そんな言動が可愛らしいと遼一を思わせた。
「遼ちゃん……って俺?」
遼一は改めて詩音に聞き返した。すると詩音は小さく頷いた。
「……ごめんね剣崎くん…。これから一緒に暮らすことになるから………嫌なら…剣崎くん…って呼ぶから……」
(なるほど……そういうことか)
「遼ちゃんでも構わないよ……し、詩音…」
気恥ずかしそうに遼一ははにかんで詩音の名前を呼んだ。
詩音はニッコリと笑顔で頷くと
「改めてよろしくね遼ちゃん♪」
「ああ…こちらこそよろしくな詩音」
今度こそ間違いもなく迷わず詩音、と遼一が呼んだ瞬間だった。
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