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■ ■ ■
「……お邪魔しました…」
深く頭を下げると恋は神代家から足早に出て行った。
(恋ちゃん……)
その後ろ姿を湊は静かに見つめている。
同じ人を好きになった湊にとって恋の気持ちが痛いほどわかっていた。
昨日の夜は辛かったんだろうな、と改めて思ってしまう。
そんな湊の隣に八雲がいた。八雲もまた黙って恋の後ろ姿を見ていたのである。
「……恋ちゃんには辛いことをしたな…」
さっきまで黙っていた八雲が口を開き、小さな声で言った。
「お父さんのせいじゃないよ」
「どういうことだ湊?」
「……多分なんだけど……恋ちゃんは兄さんが帰って来ないのが自分のせいだと思ってます…。」
「恋ちゃんのせい…?湊…そんなことはないぞ」
「私だってそう思います…。……でも恋ちゃんは最近忙しくて兄さんと遊べなかったから……兄さんが愛想尽かしたと思ってるんです」
「……そうか。…でも奨の性格は恋ちゃんや湊……お前達がよく知ってるんじゃないか?」
八雲の言葉に湊深く頷く…。そんな彼女の目には涙が浮かんでいる。
恋の気持ちや考えがわかっても自分には何もしてあげることが出来ない悔しさがこみあげてくるのだ。
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