序章

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「もう・・・いいんだ・・・。もう・・・嫌だ・・・」 一人の女が小声でつぶやきながら、自分の手首にカッターで紅い線をつくっていく・・・。 数多くの腕に出来たアザの間、もしくはその上を通って、赤い滴は床に落ちた。 “ジワリ”とカーペットにしみこむ紅。 その横にポタリ、と透明な滴が落ちて、同じシミをつくる。 ポタリ―――        ポタリ――― 彼女の腕から落ちる赤い滴と、 彼女の瞳から落ちる透明な滴・・・。 一見対象的に見えるその二つは実は、どちらも彼女の痛んだ心を表していた。 彼女はカッターを持つ手に、いっそう力を込めた。 細くてきれいな手首は、いつの間にか鮮やかな赤色に染まっていた。 「どうして・・・」 いつから変わってしまったんだろう。 あのころに・・・戻りたい・・・。 何の変哲もなく、すごしていた日々。 今では夢だったかのように感じる。
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