平穏な日常

5/6
前へ
/62ページ
次へ
 古風な一軒家。広い畑。大きな欅の木が一本。懐かしい匂いに、どこか安心した。玄関にはあたしの荷物が届いていた。今日から、ここがあたしの家。  出された美味しい麦茶を飲みながら、全身の力が抜けるのが分かった。お父さんは、あのマンションで一人なのかな。ああ、だめ。感傷に浸ってはだめ。連絡するって言ったんだ。ポケットから携帯を取り出し、カチカチとメールを打つ。ちゃんと着いたよ。  あたしは、黒崎今日子。  しばらくぼうっとしていると、玄関から声がした。 「黒崎さーん!これ、ウチのばあちゃんからー」  若い声。残念ながら今おばあちゃんは裏の畑だ。ゆっくり身体を動かし、玄関に向かう。 「はい……?」 「……へ?あれ、黒崎さんは、」 「あ、今畑に……」  そこにいたのは、野菜を抱えた少し背の高い少年。穏やかな顔をしている。 「君、黒崎さんの……」 「あ、孫!孫です。今日引っ越してきて」 「……へぇ」  意味ありげな表情で、少年は野菜を手渡してきた。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加