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古風な一軒家。広い畑。大きな欅の木が一本。懐かしい匂いに、どこか安心した。玄関にはあたしの荷物が届いていた。今日から、ここがあたしの家。
出された美味しい麦茶を飲みながら、全身の力が抜けるのが分かった。お父さんは、あのマンションで一人なのかな。ああ、だめ。感傷に浸ってはだめ。連絡するって言ったんだ。ポケットから携帯を取り出し、カチカチとメールを打つ。ちゃんと着いたよ。
あたしは、黒崎今日子。
しばらくぼうっとしていると、玄関から声がした。
「黒崎さーん!これ、ウチのばあちゃんからー」
若い声。残念ながら今おばあちゃんは裏の畑だ。ゆっくり身体を動かし、玄関に向かう。
「はい……?」
「……へ?あれ、黒崎さんは、」
「あ、今畑に……」
そこにいたのは、野菜を抱えた少し背の高い少年。穏やかな顔をしている。
「君、黒崎さんの……」
「あ、孫!孫です。今日引っ越してきて」
「……へぇ」
意味ありげな表情で、少年は野菜を手渡してきた。
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