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親父は強かった。
私が知っている中で一番強かった。
銃弾の雨をかいくぐり、体ひとつで軍隊にさえ立ち向かって、勝ってさえいた。
傷をおったのを見た事がない。
泣いている姿なんて見た事すらない。
その親父が泣いていた。
辺戸岬の死体の山の前で冷たくなった人達を運びながら泣いていた。
琉球空手喜屋武流の5代目、世界を渡り歩き、様々な格闘技を取り込み、すでに空手の原型すらなくなった格闘技、喜屋武流。
その力、人の為にあれ。
その力、守る為にあれ。
その力、琉球最後の楯であれ。
故郷を守る為にフィリピンのジャングルで一人戦い続けた漢は、故郷の地を守れず、同朋を失った深い悲しみと絶望に苛まれていた。
国から招集通知がこようとも相手にせず、非国民と周りから罵られても無視し、琉球を守る時にのみ行動を起こした喜屋武流5代目 喜屋武正義。
戦前は無法な日本軍の兵士をぶっ飛ばし、戦後は悪事を働き続けた米軍兵士のみを土に帰し続けた漢。
父の拳は常に被害にあう人の為だけに振るわれてきた。理不尽を倒す理不尽。
そんな人だった。
その父がこの地獄の中で泣きながら死体の山を片付けている。
私が覚えている父が泣いていた最初で最後の光景。
ミッキーマウスマーチを歌いながら進軍する米軍兵士をなぎ払い南へ、ただひたすら進み続け、辺戸で見た地獄のような世界を生きのびようとした人達を救う為に父は進み続けた。
しかし、その選択は間違いだった。
そしてまた一人盟友を失うコトなる。
琉球の剣、辺戸流六代目 辺戸守人。
喜屋武流と対をなす辺戸流は守りに重点を置く喜屋武流と違い攻撃に重点を置く。
それゆえに守りながら戦うのに不慣れな彼は、娘をかばって致命的な一撃をくらってしまった。
だが彼は笑いながら
「なんくるないさー。
早く南部の人達を助けに行かないとなー。」
とか言いながら、避難民の後方へ向かっていく。
「ちょっと囮になってくるやっさー。
後で必ず合流するよー。」
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