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マナーモードにしてある携帯が机の上で揺れている。
『はい、もしもし』
『今日は、ちゃんと起きてたみたいね!』
電話口からでもわかる、やる気のある声でアヤカは言った。
立て続けに
『高校は中学と違って、遅刻とか多いと進級できないだから』
アヤカがこうこう言うのもしょうがない。
徹は中学生の時、意図的に遅刻、早退を繰り返していた。
正しくいうと、『サボり』だった。
理由は得になかった。
ただ膝のケガで部活のバスケができ無くなり、悪い奴らとつるむようになった2年生の時からだった。
『あぁ、わかってるよ。ってお前もう家出た?』
昔の傷口を掘り返されたくないから、徹は話をすり替えた。
中学時代は、母親に迷惑をかけたから、高校では真面目にやる。
親の希望の大学に入学する。
それが徹の高校での目標だったし、親孝行だと考えてた。
『うん、もう出たよ。自転車に乗ってる~、徹んち家に5分以内で着くから。親は後で来るみたいだし』
電話口からアヤカの声と風を切る音が聞こえる。
『わかった、じゃ出て待ってるわ』
電話を切って徹は玄関に向かった。
もう一度、ネクタイを確かめ、新しい革靴を履く。
小指が少し当たって痛いが、緊張のせいかあまり気にならない。
外に出て自転車に乗ってアヤカを待つ。
こうして学校に行くのは小学生以来であり、少し恥ずかしい気持ちもあった。
元々、成績が良かった徹だが内申書の評価が悪く、進学校には行けなかった。
だから普通の高校で、成績優秀者として大学へ行く事を、中学の担任が進めた。家から近い事もあり、徹も納得した。
アヤカは成績、内申書ともに優秀。
水泳部の部長で、他の学校からの推薦の話もあったが、制服がかわいいという理由で徹と同じ学校を選んだ。
高校は、バイトして遊んぶ。
アヤカはスポーツ女子より女の子を選んだ。
もちろん、そんなことは徹に理解できるはずもない。
小春日和の暖かい陽気に、一眠りしたい気持ちになったとき、
『チャリン、チャリン』
と、自転車のベルが鳴った。
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