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そのときのぼくは、それでも、その夢のことを深く考えようとはしなかった。
受験勉強があったから。
ぼくはどうしても東京の大学に入りたくて、
日常の瑣末事はすべて投げ捨てて勉強していた。
早く、東京へ行かなくては。早く。
東京で、姉さんが、待っているのだ。
ぼくには、一つ違いの姉さんが居る。
小さい頃からいつも一緒に居た姉さん。
ぼくの想い出の中にはいつも姉さんが居て、姉さんの想い出の中にだっていつもぼくが……
小学生の時は双子に間違われたこともあるくらい。
その姉さんは、看護士になる、と、言い残し、高校卒業後、東京へと旅立った。
姉さんは、小さい頃の約束を覚えていたんだ。
ぼくが医者になり、姉さんが看護士になり、二人でこの地元に恩返ししよう、って。
ただ、うちはそれほど裕福ではなかったから、姉さんは、学費のために、ぼくのために、バイトを始めた。
看護学校に入りながら、学費の大半を稼ぐという生活。
大変だ、というのは、なんとなくわかっていた。
月に一度の電話の、姉さんの声から、だんだんと艶が薄れていったのだ。
夏休みに帰ってきた時には、とてもやつれていた。
美しくって、自慢の姉さんだったのに。
連絡が少ないことを、東京で、悪い男にひっかかったんじゃないか、と、心配していたぼくだったが、
実際はそんなことはなく、
ただただ、疲労の蓄積が、姉さんを蝕んでいたんだ。
ぼくの学費のために。
ぼくの、ために。
だから早く、ぼくも……
両親を、ではなく、地元をでもなく、姉さんを、支えたかったのだ。
でも、姉さんは、東京に再び発ったあと、姿を消した。
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