美咲の章:2.恋の咲く場所

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やっと着いた代々木公園は、路上ライブで賑わっていた。 みんな、等間隔で、それぞれの歌を歌ってる。 私は、やっぱり直君と話すこともなく 話しかけられても、相づちを打つだけで、ただ歌だけに耳を傾けて歩いていった。 愛を歌う歌、友情を歌う歌、夢を歌う歌。 次々と耳に入ってくる、色の違うフレーズを勝手に結びつけて妄想にふけっていた私は 直君が横にいないことに、すぐには気付かなかった。 「あれ、直君?」 振り返ってみると、遠く彼方に直君が見える。 私が小走りで直君の元へ戻ると、直君はカメラを手に、しゃがんでいた。 近くで、女の子がギターを持って歌ってる。 「何撮ってるの?」 「それ」 直君が指を指したとこを見ると、そこには、小さな黄色い花が咲いていた。 とても地味。 私は、ふうん、と返事をしてから 「歌ってる人は撮らないの?」 と、聞いてみた。 直君は、まだその地味な写真を撮っている。 「時々、撮るけど」 「花の写真が好きなの?」 「人の写真も好きだけどさ」 直君は、カメラにふたをし、立ち上がって私を真っ直ぐ見た。 「人の写真は結構、難しいんだよ。俺にはまだまだ」 どうして、と聞きたい気持ちはあったけど  直君のその視線と、悔しい言葉の裏にある、どこか眩しい響きが私の口をふさいだ。 それから、私はまた無口になったけど、今度は、直君の後ろをついていくようにした。 直君は、ちょっと歩いてはすぐ立ち止まって花や風景を撮っていく。 たまーに、歌ってる人を撮ることもあったけど、首を何回も傾げて 花の写真を撮るときより多く、シャッターを切る。 その顔は、悪くなかった。 こうして、全ては一応、無事に終わった。
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