美咲の章:2.恋の咲く場所

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直君とは、挨拶だけ交わす、いつもと変わらない日が続いて、数日が経った。 敢えて変わったことと言えば、直君を見てることが多くなったこと。 ううん、それもちょっと違う。 今までは、直君を見るって言うと、それは鑑賞を意味してたけど、今のは観察に近い。 今までも笑った顔もよく眺めてたはずなのに、今の直君の笑顔は全然違って見える。 そんなわけで、その日、直君が私に向かって来たとき、私は真っ先に目が合った。 直君は、手に持ってた小袋を私の机に置いて 「こないだの写真。見るかなって」 見ない、とは言えない。 「うん、見る」 私が小袋に手を伸ばすと、直君は、近くにあったイスを私の机に寄せて座った。 写真を一枚ずつめくっていくと、紙に閉じ込められてるはずの花たちが動いてる。 そんな気がした。 動く写真なんて、見たことがない。 『ハリーポッター』の映画ではそういうのがあったけど、少なくとも現実では。 最後の一枚は、あの黄色い小さな花だった。 私が見たあの花は、とても地味だった。 なのに、直君の写真では、とても大きく、派手って言ってもいいくらい、光を放ってる。 「どうだった?」 直君が、私が見終わるのを見計らって聞いてきた。 「あの、すごい、と思う」 もっと感じたことはあるのに、とっさに出た言葉は、どの感じ方とも違うものだった。 直君は、そか、と言って、自分の席に戻ろうとした。 私は慌てて 「あの」 「ん?」 「あの」と「ん?」の1秒にも満たない間、私は、ぴったりの言葉を探そうと必死。 それでやっと出たのが 「あの、なんか温かい写真だね」 今度は正解。 直君は、それを聞くと、顔をくしゃっとさせて 「ありがとう」 と言った。 その笑顔も、嬉しくて自慢したい気持ちを抑えきれずに弾んだ声も、私は初めて聞いた。
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