美咲の章:1.それだけのこと

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香奈が腕をまくってUFOキャッチャーの前に立つ。 コインを入れていざ開始。 私は、香奈の手元とクレーンの動きを息をのんで交互に見つめた。 1回目。2回目。 香奈は、クレーンの先を、リラックダのタグに引っかけ、確実にゴールに近づけていく。 やな予感。 そして3回目。 リラックダは、クレーンにぽんっと後ろを押されただけで、ホールインワン。 「うそー」 「香奈様を甘く見すぎたようね」 自慢げな香奈に私は大きく息を吸い、覚悟を決めた。 「で、取引とは何でござんすか?」 「美咲、もっとこー、感謝の気持ちというのはないの?」 「はいはい、ありがとね。で、ご要望は?」 香奈の作った呆れ顔が、にやつきに変わる。 「明日中に直君に告白しなさい」 私は耳を疑った。 何でどうしてどうやって。 問いつめようとする私を振り切るように、香奈は  「翔、待たせてるから」 とだけ言って店を出た。
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