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「だって、もうあの人がいないんです。会えないんですよ」
微笑みを浮かべたまま、悪流は独り言の様にぼやく。
月明かりに照らされたその笑みは、どこか妖艶な色が滲んでいた。
「……ちょっ、あんた御乱心すぐるぞ!自重しる!」
魔王が騒ぐが、悪流はガン無視を決め込んでいる。
……と、いうより聞こえていない。
ヴァルアはそんな悪流を、少しばかり眺める。
「……」
怯えているんですね。
ヴァルアは思う。きっと、今の彼女にとって……復讐を忘れるというのは大切な者を忘れるのと同義なのだろう。
少なくとも、今の彼女にとってはそれが真実――――。
ならば、力ずくでも止めるべきか?
身構えるが、いや、とヴァルアは攻撃の姿勢を崩す。
きっと、今の彼女は死ぬまで止まらないでしょう。
彼女を止める為に、殺してしまえば意味なんてないし、戦えばここら一帯も無事では済まない。
そうなれば事件は表沙汰になり、立場上、彼女を殺さねばならなくなる。
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