間章の十六、『美しい名前』

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「あっ……あり、が……ありが……。」  涙を押さえる様なアクルを見ながら、魔王はニヒヒと笑う。 「んじゃさ、我もう行くな? じゃあな、アクルたん。楽しかったぜー、最期にいい思い出がでけたわ。」 「ま、待って!」  身を翻し、黄昏に向けて歩き出す魔王をアクルは呼び止めた。 「また……だって、そんな言い方寂しいよ。悲しいよ……。だから、また。  また、会える様な感じで別れよう? また、会えそうな言葉で……」  泣くのを堪えて。どうにか微笑みを浮かべるアクルに対して魔王は笑った。 「うは、そりもそうだな。 んじゃさ……『また』な? 樋山 愛留(あくる)」  魔王が記憶から拾った。本当につけられる予定だった彼女の名前。  しかし、アクルたんのネーミングはある意味母親似だよなー、とか思う魔王に対してアクルは微笑み言った。 「うん! じゃあ、『また』ね? 釈迦(シャカ)……。」  魔王はちょっぴり驚いた顔を向ける。魔王になってから呼ばれなくなった自分の本名。  すっかり忘れていた自分の名前。彼女は、自分の為に多分……今、拾ってくれたのだろう。  魔王は照れたように笑って、落陽の日だまりの中に消えた。
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