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「ありがとう……。」
消えた光りの先に、アクルは呟く。
「本当に、今までありがとう。」
沈み落ちていく夕陽にアクルは続ける。
「ずっと一緒にいてくれて……ありがとう。」
景色が、歪んで行く。頬からつたり落ちるのは、雨の雫。
雲ひとつ無い夕焼けの空……ポタポタと確かに雨の雫は零れた。
しゃがみこんで嗚咽を漏らしながら、アクルの口からは何度だって、ただ『ありがとう』の言の葉。
満単になって、器から溢れて零れて行く心は地面に落ちて、儚く染みを作る。
目を瞑り、アクルはずっとずっと……そうしていた―――――。
目を開くと、そこは見知らぬ布団の中だった。
『魔王』は――――
―――――もう、いなかった。
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