間章の一『聖女』

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 ヴァルアが少しだけ攻撃の構えをとった事は、悪流はおろか、魔王も気付いてはいない。 「仕方、ありませんね」  そう言って、ヴァルアは少しだけ肩を落とした。 「それならば、私も止めませんよ。」  そんな様子をしばし眺めていた悪流は、ハッと目を見開いた。  景色はいつも通り。自分は、何をしようとしていた? 「……あの、ごめんなさい……」  ペコリと頭を下げて、悪流は視線を反らす。 「……本当にすいません、あたし、もう行きますね?」  一緒にいるのが気まずくて、悪流はそう呟き身を翻す。  そんな小さな背中を眺めながら、ヴァルアは小さく息を吐く。無力ですね、本当に……。 「……?」  やや離れた位置で振り返っているアクルに気付いて、ヴァルアは少し首を傾げた。 「その――ありがとうございました」  そう言って、アクルはぎこちなく笑った。  それを見て、ヴァルアも笑う。 「……貴女は独りではありません。どうか、忘れないで下さい」  彼女の内に住む魔王。彼女なら、きっと彼女を独りに等しないだろう。  ふと、以前聞いたアエアリスの報告を思い出す。  牛の角の魔族と、もう一人いたらしい事を。  ……。  もしかしたら、彼女はいまは一人でも、独りではないのかもしれない。
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