115人が本棚に入れています
本棚に追加
ヴァルアが少しだけ攻撃の構えをとった事は、悪流はおろか、魔王も気付いてはいない。
「仕方、ありませんね」
そう言って、ヴァルアは少しだけ肩を落とした。
「それならば、私も止めませんよ。」
そんな様子をしばし眺めていた悪流は、ハッと目を見開いた。
景色はいつも通り。自分は、何をしようとしていた?
「……あの、ごめんなさい……」
ペコリと頭を下げて、悪流は視線を反らす。
「……本当にすいません、あたし、もう行きますね?」
一緒にいるのが気まずくて、悪流はそう呟き身を翻す。
そんな小さな背中を眺めながら、ヴァルアは小さく息を吐く。無力ですね、本当に……。
「……?」
やや離れた位置で振り返っているアクルに気付いて、ヴァルアは少し首を傾げた。
「その――ありがとうございました」
そう言って、アクルはぎこちなく笑った。
それを見て、ヴァルアも笑う。
「……貴女は独りではありません。どうか、忘れないで下さい」
彼女の内に住む魔王。彼女なら、きっと彼女を独りに等しないだろう。
ふと、以前聞いたアエアリスの報告を思い出す。
牛の角の魔族と、もう一人いたらしい事を。
……。
もしかしたら、彼女はいまは一人でも、独りではないのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!