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「非羊。」
「やぁエリス。多分、これが最期の会話になると思うよ。」
山の奥深く。木々の中でも一際、抜群に巨大な神木の前まで来たエリスに、非羊は声をかける。
「……最期?」
「うん。どうやら、私の命ももうこれまでみたいだ。長い事生きたからねぇ。」
「……――――そう、なの。」
目を伏せるエリスの頭を、非羊は微笑みながらポンポンと叩く。
「そんな顔しない、多分もう私がいなくても大丈夫だろう?」
「んなわきゃ、ないでしょ……」
「あっはっは、私が消えても仲間が……何より走馬がいるじゃあないか。エリスには。」
「……ッ」
非羊は歌う様に言って、踊るように辺りを歩く。
「後は、任せたよ? あ、そうそう。もうタリアスの事は警戒しなくていいよ。」
「……アンタが言うなら、間違いないのよね?」
「うん。間違いないね。残りは万龍と従虎だけさ。」
さてさて、と非羊は大木を見上げた。つられる様にエリスも視線を移す。
「ごらんエリス。今に、倒れるよ。」
一陣、強い風が吹き抜ける。木々がざわざわと揺れる中……大木はメキメキと音を立てそのまま倒れた。
「あ…………。」
非羊ももういない。梟の鳴き声が静かな森にこだました。
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