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これを送信した相手を考える必要もない。
(アイツだ……っ!)
パソコンの画面から目線を移せば、ソイツはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて此方を見ていた。
まだ若く、『格好いい』と女性社員から人気もある。だが、仕事を疎かにしていて、私はそれを注意したのだ。
本当に軽い注意だった。だが、最近の若いヤツは勘違いをしやすい。
キレられたの何だのと彼方此方で言い、元から好かれるような性格ではない私は、もうすっかり悪者扱いだ。
不快感から、私は即座にメールを消去し、パソコンの電源を落としてオフィスを出る。
後ろから、部長が何かを喚いているが気に止めることもせず、黒革のコートに腕を通し、外へと一歩踏み出した。
冷たい、冬特有の乾いた風に身を打たれ、私は身を強ばらせた。
それはまるで、世間の私に対する評価のような気がして、思わず溜め息が洩れる。
私には、妻と娘がいる。だが、二人は私を良く思っていないだろう。
――この間はひどいものだった。
仕事が思ったよりも早く終わり、早く家で寛ぎたいという気持ちから、いつもより早い時間に家に着いたのだ。
小さな声で『ただいま』と言って靴を脱ぎ、リビングへと行くと、娘の怒声が家の中に響いた。
「お母さん最低っ! 何で親父のと一緒にパンツ洗ってんのよっ!! もうこれ要らないっ!! 捨ててよねっ!!」
ドタバタと廊下を駆けて、リビングに来た娘と目が合った。すると、娘は汚らわしいものでも見たような目をしていたのだ。
そして、私などそこに居なかったように二階に上がり、バタンッ! と乱暴に扉を閉めた。
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