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私はというと、何も言うことができなかった。思春期になった娘だと、仕方がないと、そう思っていた。
否――思おうとしていた。
心のどこかで、そんな娘が憎かった。
ここまで育てやったのは誰だ。妻か? いいや、私だ。子育てなど、誰にだってできる。
だが、子供と妻を養うだけの金を誰が稼いでやった?
今まで仕事を完璧にこなしてきた私がいなければ、小遣いも少なかっただろう。
綺麗な服も買ってやれなかっただろう。
(なのに、何だ、あの態度は、言動は)
あの時の娘の顔を思い出して、胸の辺りがムカムカしてきた。
こんな日は、一人で居酒屋にでも行こう。
きっと、家に帰っても私の食事など用意されていないのだから。
フラフラとした足取りで、私はネオンの輝く街へと迷い込んでいった。
女性をホストクラブへと誘う、呼び込みの声。それと同じように、男性をキャバクラへと誘う声。
呂律の回らない男の怒号、女のすすり泣き、複数人の馬鹿笑い。
様々な声が渋滞していて、耳を塞ぎたくなる。歩くスピードを少し速め、キョロキョロと居酒屋を探した。
「――?」
ふと、足が止まる。
私の目の前にあるのは、外壁が黒いタイルでコーティングされた、シックなムードを漂わせるレストランだった。
普段ならば素通りしてしまうような店だが、何故か私は、その店に引き付けられた。
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