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気づけば、私は扉を開けていた。
カラン、と扉の上部につけられたベルが小さな音を鳴らすと、一人の男が奥からゆったりとした動きで此方へとやってくる。
ハッと、私は息を飲んだ。
絹糸のように輝く銀の髪、黒曜石の瞳、細く、しかしどこか逞しさを感じる手。他にも挙げたらキリがないほど、その男は美しかった。
私が未だかつて見たことのない異質な輝きを、その男は持っているのだ。
仮に例えるのならば、そう――ビスクドールのような、滑らかで、洗礼された美しさ。
「いらっしゃいませ、お客様」
男の声に、ピクリと肩が揺れた。思わず見入ってしまったようだ。
男が男に見入る……。そんなこと、あるわけがないと、そう思っていたが、実際にあるらしい。
「お客様……?」
「え、あぁ、すまない。少し考え事を……」
誰かと会話をしているときに何かを考えるのは、私の悪いクセだ。これのせいで何度、妻に罵声を浴びせられたことか……。
(おっと、いかんいかん)
また考え込みそうになったのを慌て止め、男の方を見ると、出てきた時と同じように涼しい顔をしていた。
「左様でございますか。しかし、立ったままでは落ち着かれないでしょう。お席へご案内いたします」
ニコリと、しかし妖艶に微笑んだ男は一歩下がり、深く礼をして、私を店の中央部に位置する席へと案内した。
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