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いつかの日の事である。
昼休みを知らせるチャイムが鳴るとクラスメート達が一斉にそれぞれの居場所へと散らばる。
やがて女子生徒の集団と小さな男達のグループが点々に出来上がる。
その男グループの一つ、街中を一望出来る絶好の場所である教室の一角に陣取った俺達二人は机を向かい合わせにして、奴と対峙する。
対面に座る鳳仙花 翔(ほうせんか かける)は視線を飯に向け、左手に持った箸を休める事なくおかずやらご飯を黙々と口に運んでいた。
俺は食べ進めていた箸を置き、その様子をじっと観察する。
野菜に全く手を付けない所やご飯の一粒一粒を残さず食べる性格がいかにも翔らしかった。
そして、翔の食べ終わるタイミングを見計らい、ここぞとばかりに俺は声を掛けた。
「 なぁ翔 」
「 何だ、真十郎? 」
右手で懐を探るような仕草を取りながら翔は応えた。
何故か、左手には箸を握っている。
まだ食べ足りないのだろうか。
「 ちょっと話を聞いてくれないか? 」
翔はしばらく黙り込んだ後、弁当の底を箸で叩いた。
話を聞く代わりに弁当のおかずをくれ、と意味なのだろう。
俺は小さなお弁当の中から衣がごつごつとした唐揚げを渡してやる。
「 話って、何の? 」
翔は唐揚げを箸で一刺しにして平らげると懐から携帯機ゲームを取り出した。
育ちの割に平然と渡し箸をしたりとマナーは悪かった。
「 相談、なんだけどさ 」
翔はまた金属音を響かせる。
相談は別料金なのだろう。
セコい商売を思い付くヤツだ。
俺は小さいお弁当をから、またおかずをつまみ出し、今度は卵焼きを差し出す。
「 相談って? 」
翔は下を向いたまま生返事で返す。
小刻みに感嘆の声を上げたりとゲームに夢中であった。
「 じ、実はさ…… 」
俺は口に含んだ唾を飲み込み一呼吸を入れる。
「 ストーカーに遭ってるみたいなんだよ、俺 」
翔がこちらを見上げるとゲームオーバーを告げるチープなBGMが悲しくそして、タイミング良く鳴った。
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