2人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
大体の事情を翔に話したものの、ドラマでしか体験しなさそうなしかも男がストーカーされるという現実味の無い話をした所で真面目な意見が出るはずもなかった。
話を聞いていた翔もそろそろ飽きたのか、後ろに体重をぐっと掛けたりして、椅子が倒れるか倒れないか、そんな微妙なバランスを保ちながら翔はまたゲームに没頭していた。
「 何かさ、もう少しストーカーされてるって警察に話を聞いてもらえるような証拠は無いのか? 物的証拠、みたいなヤツとかあれば良いんだけどさ 」
ゲームに視線を集中させながら翔は独り言のように呟く。
「 あるよ 」
俺の応えに翔は一瞬きょとんとした顔をしたが怪訝な雰囲気を醸し出した。
「 どれ? 」
「 これだよ 」
俺は目の前の弁当を突き出す。
中身は既にうさぎの形をした林檎が二つしか入っていなかった。
「 これ、って? 」
翔が再確認した。
「 この弁当だよ。
今日、これが下駄箱に入ってた。
今、翔が食べた唐揚げや卵焼きも全部多分ストーカーが作った弁当だと思う 」
「 んがッ!?!? 」
悪役のプロレスラーが放つ毒霧のように口に入った物を豪快に吹き出し、翔は後ろに転げ落ちた。
ちょうど卵焼きが翔の食道を通っていた途中だったのだ。
「 一体、どうやったらストーカーが作った弁当を食べようって気になるんだ…… 」
翔がようやく立ち上がると掛けていた眼鏡も見事に垂れ下がっていた。
「 昼代が浮くんだし、この弁当をどうしようが別に良いだろ。
しかもこの弁当、中々美味しいし 」
俺は最後の林檎を頬張った。
林檎の果汁が口いっぱいに広がる。
「 まぁ、美味しいって所は否定しないけどさ…… 」
味にうるさい翔もこの弁当には好評価のようだ。
「 ……よし 」
俺はおもむろに椅子から立ち上がる。
最初のコメントを投稿しよう!