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一同が翔を見ていた時だった。教室のドアの向こうでバケツに蹴つまずく音がした。
そして、女の子の慌てているような声がした後、上履きの逃げる足音が聞こえた。
翔の奇行により、教室は静まり返っていたのでクラスメート一同までもがその音を聞き取れていた。
「 真十郎! 」
「 へっ!?
あ、何? 」
翔の声に反応してか、急に話し掛けられた俺は一々驚いてしまう。
「 ス ト ー カ ー !! 」
その言葉にはっと我に帰った。
裏返った声で分かったと言い返し、急いで翔の後を追った。
長い廊下を走り抜け、階段を下りたりと翔の背中に食らいつくのが精一杯だった。
そして学校中を走りに走った末、中庭に着いた翔は速度を緩める。
急に立ち止まられた為俺も慌てて、スピードを落とし右足でブレーキを掛けた。
「 か、翔? 」
「 ……巻かれた 」
「 ま、巻かれた……? 」
「もう少し反応が早ければ……」
ぶつぶつと独り言を呟きながら翔が眼鏡を掛け直す。
散々走ったが息を切らすような疲れた態度を一つも見せない。
翔のズバ抜けた体力を見せ付けられた事よりも悔しそうな翔の顔に驚いた。
成績優秀、勉学やスポーツではトップを譲らなかった翔が追いかけっこで負けたのだ。
翔の負けず嫌いの精神と一度決めた事は最後までやり抜くという性分が混ざり合い炎のように燃えていた。
「 真十郎!! 」
翔は俺の両肩を力いっぱい握る。
「 どっ、どうした……? 」
痛みに堪える顔をするが翔には見えていない。
「 ストーカー、見つけ出そうな!」
昼食中までのテンションはどこに行ったのだろうか。
「 おう……。
が、頑張ろうな…… 」
苦笑いをいっぱいにした顔で俺は翔に振り撒いてやる。
そして昼休みのチャイムが鳴り俺の脱力感は頂点に達した。
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