第二話

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    「 放課後まで話し掛けないでくれ 」 教室の戻り際、翔がそう言ってからというもの、ストーカー被害者である当の本人、椿 真十郎(俺)は言われた通り話し掛けずただ恐る恐る翔の様子を伺っていた。 俺の前の席で午後の授業を受けている翔は名刑事のように眉間に指を宛がっていたり、時々ノートに何かを書き写していたような仕草を何度も繰り返していた。 昼休みの奇行もあってかクラスメート一同も翔に話し掛けようとする奴はいなかった。 しかし、翔を変人扱いする奴はおらず、天才肌だから仕方ないという議論で片付いたらしい。 翔の顔立ちだけにそういう総評になっただけで物は言いよう、ってヤツなのかもしれない。 イケメンって良いなぁ。 今日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると翔は身体を捻らせこちらに顔を向けた。 「 真十郎!!!! 」 目を輝かせ嬉しそうな翔は勢い良く立ち上がった。 「 ……えーと、話し掛けて良いの? 」 「 ちょっと、来てくれ 」 翔が手招きをする。 そして翔の後に付いて行った先、翔はある一つの教室の入り口で立ち止まった。 「 三十分だけ時間をくれ 」 そう言い残し、翔は中に入って行き、俺は置き去りにされてしまった。 三十分という時間を勝手に貸し出された俺は無駄に広い学校をぶらつく体力もなく、俺はドアにもたれ掛かった。 物思いにふけていると不意に過ぎる彼女の顔が浮かぶ。 現在、椿 真十郎(男)は一目惚れをしています。 一目惚れの相手、彼女の名前は胡桃 鞘子(くるみ さやこ)と言う、らしい。 もちろん名前を彼女から聞いた訳でもなく、はたまた翔から聞いた訳でもなく、彼女のクラスにいた男子生徒一人を呼び名前を聞き出したのだ。 きっかけは突然だった。 そろそろ終わりかけの入学式、俺は別クラスになってしまった翔を探し、辺りを見渡していた時だった。
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