洋子 ── 1990年

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それからのあたしはまるでモルモットのようだった。 一体何のために必要なのか分からないまま、検査に次ぐ検査、そしてあたしの様子を大勢のお医者さんが見に来るようになった。 「新しい抗がん剤」の投与も始まったが、以前のような苦しみが襲ってきただけで、効いてるのか効いていないのかさっぱり分からなかった。 以前よりさらにやつれ、髪の毛もぱらぱらと抜け落ちたあたしを、見舞いに来たクラスメートたちは引きつった笑顔で激励した。 「学校……行きたいな。」 みんなで折ったという千羽鶴を枕元において友達が立ち去った後、あたしの口をついて出たのはそんな言葉だった。 最初に熱を出した日、学校を休むことになって危うくガッツポーズをしかけた自分が、今のあたしにはまるきり信じられない。 「元気になったらいくらでも行けるわよ。」 母さんの優しさが嬉しかった。 今のあたしにとって「学校へ行く」ことは、もう「将来の夢」みたいになっていた。
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