洋子 ── 1990年

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相川先生が勧めてくれた「新しい抗がん剤」の投与が終わった頃には、あたしの足腰は立たなくなっていた。 それどころか、食べ物もほとんど喉を通らない。 もう1人では何も出来ないくらい、あたしは衰弱してしまっていた。 「洋子、退院しましょう……」 およそ1時間ぶりに診察室から出てきた母さんは、いきなりあたしにこう言った。 「?……抗がん剤はもういいの?」 「いいのよ……もう、抗がん剤はいいのよ。」 母さんはあたしをぎゅっと抱きしめ、声を殺して泣いた。
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