23人が本棚に入れています
本棚に追加
「海が……見たいな……」
季節は夏になっていた。
母さんの運転する車の中で、あたしはかすれる声を振り絞って希望を告げた。
まだ夏休みにはなっておらず、そのせいか海岸に人気はない。
「洋子、見える?……海よ、海に着いたよ?」
「お母さん……これ、かけて。A面の……3曲目……」
モルヒネのせいか、朦朧とする意識の中、あたしは死んでいった奈々ちゃんから貰ったカセットテープを母さんに差し出した。
A面の3曲目には「世界でいちばん熱い夏」が入っている。
「きれいな海だね……お母……さん……」
もうあまり苦しくない。でも、何だかとっても眠い……
カーステレオから流れてきた、元気一杯の明るい歌声を聴きながら、あたしは静かに目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!