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朝がやってきて、昨日の出来事は夢じゃなかったとわかる。
誰に見せるわけでもないが、ダラダラと学校へ行く準備をして無気力を装った。
朝食も何だか味気ない。
玄関を出て自転車に乗った。
勢いよく坂を滑り降り十字路を右折すると、テニスラケットを後ろに背負う彼女の姿が確認できた。
見慣れた彼女の後ろ姿を追いかける余裕なんてないことはわかっている。
このまま知らぬふりで通り過ぎよう。
そう自分に言い聞かせていた。
そんな心の中を覗かれたかのように、彼女は振り返りこちらに歩み寄ってくる。
後ろで束ねた髪を軽く弾ませて、僕の前に立つと目線をしっかり合わせた。
まるで昨日と同じだ。
「おはよう」
昨日と違い少しためらいがちな声は、今まで感じた事のない感情を呼び起こした。
僕はその感情を正しく理解することができなかったため、その場を無言で立ち去った。
そのまっすぐな姿勢に、自分にない物を感じていたのだろう。
そして、本当に彼女が好きだった事に気付き、自然と涙が出た。
蝉の鳴き声が妙に五月蝿く感じた夏の日だった。
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