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――――……
「…着心地は悪かねぇな。」
俺は今、茶屋の女に借りた着物を身に纏っている。
…にしても今日は土方を見失うわ面倒事に首突っ込むわ…もう疲れた。
俺は汚れた着物から泥にまみれた刀を外した。
汚ぇ…川で洗うか。
………ん?
俺は刀を手にして小首を傾げた。
何だろうか。
何か妙にしっくりこない。
「…~!~~…」
…何だか嫌に外がやかましいな。
俺は下駄を突っ掛けて襖を開いた。
――――……
そして今に至る。
何で…何で何で!!
あ そ こ に 俺 が い る !?
男に斬りかかった女の後ろで、抜き身の刀をぶらりと持ちながら俺を見て固まっている。
「…お前は誰だ!?」
気付けば俺は叫んでいた。
「お前こそ誰だ!!」
俺もどきは俺同様焦った声で叫ぶ。
「なんやの…どないしたんえ。」
刀を持った女は相変わらず落ち着いた京弁で溜め息をついた
「おい女ァ…こりゃあ一体どういう了見だぁ!?」
俺はグイッと女の襟首を掴み上げて間近で睨みを効かせる
その時の俺は多分関係の無い彼女に八つ当たりしていたんだと思う
女は臆する事無く無表情で俺の顔を真っ直ぐに見つめた
「了見なんて知りまへんよってに。うちはただ一丁前に髷結わえた泥臭浪人共をいてこましはったろ思うただけです。」
「あんたみてぇなただの女からあんな怪力が出るわきゃねぇだろうが。
…てめぇ誰から遣われやがった?」
俺がさらに迫り寄ると、女はクスリと微笑して俺の肩に優しく右手を添えた
「全く…分からん御人ですなぁ…。
分からはりまへんか?うち、面倒事は嫌いですねん。」
「あっ…!?」
瞬間、添えられた右手が信じられない程の怪力で俺の体を宙に浮かせた
驚いた俺は思わず襟首から手を離し、はんなりとした女の顔を凝視する
「うちは雇われ業でも、忍びでもあらはりまへん。単なる個人的な怨恨どす。
勝手な憶測で話を進めへんといて下さい。」
その憎しみとも悲しみともとれる強い彼女の眼光に俺はグッと気圧される
だがなぜか、驚く程に大きな親近感を感じた
俺こいつの事……知らない…よな?
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