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『た…ん…!!』
誰かが必死に話し掛けている。
『…か…さん…!!』
誰だよ…もう少し寝かせろよ…
「起きてください!!」
その大声に俺はハッと目が覚めた。
ガバッと起き上がり周りを見渡す。
土方は…既にいないときた。
情けをかけて見逃したのか?
「大丈夫でしたか?」
声の方を見ると見たことの無い位綺麗な美黒の長髪を結わえる弱々しそうな男が心配そうにしゃがんでいた。
歳は多分三十路過ぎ位だと思う。
この男…どこかで…
「あ…平気だ。」
男に手を差し出され、俺も素直に掴み立たせてもらう。
ぐっと立ち上がると着物が体にぺったりと貼り付く感触を覚えた。
………気持ち悪い。
「うわぁ…着物びしょ濡れじゃないですか。」
男は俺の格好を見て眉を潜めた。
あぁ…この着流し桂から貰ったやつだったんだけどな…
爽やかな黄緑色だった着流しは雨水と泥のせいで真っ黒に染まっていた。
ま、俺に爽やかな色は似合わないって事だ。
これに懲りたら桂も毎日の様に爽やか着物を送るの辞めてくれるだろうか。
「あ、すぐそこで私の知り合いが茶屋を営んでいます。
そこでお借りましょうか。」
男はそう言うとにこやかに笑って俺の着流しをギュッと握る。
「うおっ!?ちょっ…」
そして断る暇も与えず、男はびゅんっと凄い速さで走りだした。
――――……
「着きましたよ。」
「はっ…早ぇっ…」
俺が肩で息をしているのを他所に、男はにこやかに笑ったまま顔色ひとつ変えない。
本当に何者だこいつ。
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