『千鶴子の手記』

はしがき

　図書館は公園の一番端に建っていた。つまり、自分が図書館に行くには、こののどかでだだっ広い公園を完全に横断しなければならない。初春とはいえ、今日の強い日差しは、初夏といっても差し支えないほどだ。汗も滲むだろう。

　長い散歩道を前に少し考える。だが、それは一度惹かれた興味を止まらせる程の悩みではない。私は散歩道を図書館に向かって歩き出す。

　園内に入ってしまうと、自分が抱いた躊躇いは道端に落ちた塵のように、春風に泳いで消えてしまっていた。園内の空気は清々しく、新緑が眩しい。こんなに散歩に適した場所が身近にあったなんて、と驚くほどだ。まだ小さい子供を連れた夫婦が、園内の芝生にピクニックシートを広げて、手作りらしき弁当を仲睦まじく食べていた。幸せそうに、微笑み合いながら。