はしがき

6/21
前へ
/277ページ
次へ
 ――案の定、図書館の入口に着く頃にはうっすらと汗が滲み、髪が額に張り付いていた。しかし、不快な汗ではない。むしろ、日頃の不摂生をたしなめるように洗い流してくれる、母性を感じさせる汗だった。  図書館には多くの人が出入りをしていた。大学生らしい女性から、主婦、スーツを着た中年男性に至るまで、実に様々だ。不思議と集団となっている人間は見掛けない。自分の見る限りでは多くて三人まで、殆どが個人だった。そういう魔力が図書館には在るのかもしれないな、と私は思った。  館内は実にシンプルな構造をしていて、東側にやや小さい児童図書室、西側に広い一般図書室、二階は自習室になっているらしい。私は迷わず一般図書室へと向かう。  
/277ページ

最初のコメントを投稿しよう!

167人が本棚に入れています
本棚に追加