はしがき

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 兎にも角にも体裁だけは取り繕ろう、と私は目の前の本棚から適当な本を一冊取り出した。それは私でも読んだことのある有名な文学小説だった(読んだことない人も、多くは名前は知っているであろう小説だ)。  私はその本を片手に、窓辺に設置された日当たりの良い、読書用の席に移動した。椅子も机も木製で、嫌みのない造りをしている。四人掛けだが、その席には自分以外に人は居ない。私はその席に陣取り、本棚より取り出した小説を開く。  その小説は、一人の男の懺悔によって構成されていた。自滅的生涯、自虐と退廃に満ちた文章。その中に希望は一つもない。いや、在るには在るのだが、彼は自らその唯一無二の希望を放棄した。  
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