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「…シリスが教えてくれた。でも、詳しくは教えてくれなかったよ。アルエがどうして吸血鬼になったのかとか、空白の数百年間はシリスも知らないって。…なんでアルエは、憤怒の闇に目覚めたの?」
自分の言葉に、お茶のカップを持つアルエの手がピクッと動くのを見る。
「シグ、修行に行け」
「アルエ…」
「いいから出て行け!」
一瞬だが、アルエの周囲に黒い闇が現れた。アルエの怒りに反応し、憤怒の闇が現れたのだろう。シグはその魔力に脅え、震える体をさすりながらドアまで走って出て行く。
「アルエ様、何もそこまで言わなくても」
「…あれを話せるわけがなかろう。お前には妾記憶を継がせているが、あの子は何も知らない。妾の過去を知って、あの子が妾の元を離れる可能背だってある。それほど重いことは、わかっているだろう」
「ですが、シグの精神は未だ不安定なのはわかっているでしょう。何が原因でまた魔力が暴走するか」
「わかっておる。…じゃが、妾は怖いのじゃ。あの子を失いたくない。この気持ちは、お前もわかるだろ」
シグは前に一度心の闇に飲まれ、魔力を暴走させたことがある。王族の強大な魔力の暴走は街を消し飛ばすくらいの力はあるだろう。アルエが抑えなければ、シグは実の親に殺されていたかもしれない。
「私も、あの子が来てくれたのは嬉しいです。でも、あの子はここに来るために向こうとの繋がりを断っています。あの子の居場所はもうここにしかない。ですから、そこまで心配なさらなくてもいいと思いますよ」
「はたしてそうかな。…居場所は与えられるものではない。自分で作るものだ。妾が、この城を作ったようにな。あの子がその気になれば、また向こうの世界でやって行くことはできる」
向こうの世界。簡単に言ってしまえば人間社会だ。賢者となってからずっとアルエが断ってきたもの、それは人との繋がり。
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