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ある、月の隠れた闇夜。
街灯は無く、月は雲に隠れているにも関わらず、まるで明かりが灯されているかのように浮かび上がる紅い鳥居があった。
昼間さえも人通りの少ない町の外れにあるそれは、夜中にもなればいつもならば、人どころか何の音も聞こえてこない。
―カラン、カラン
しかし、その晩だけは何処からか鈴の音が辺りに響き渡っていた。
―カラン、カラン…
鈴の音はゆっくりと町から鳥居へと近付いてくる。
そして、ついに鳥居へとたどり着いたと思えば、紅(あか)の鳥居の元へ白銀がゆらりと風に靡いた。
「…此処も変わってしまった。」
そう呟いたのはゆらりと揺れる…腰辺りまである美しい『白銀の髪』と、頭にある同じく白銀の『獣耳』、そして髪と同じくして風に揺れている『尻尾』。
それはそのモノが人ならぬモノである事を指していた。
そのモノは暫く鳥居から外を見やる。
ふと、少し寂しそうな目をした後、くるりと背を向け階段を登って行く。
カラン、カランと先程と同じように鈴の音が響き渡った。
「…波が乱れた。」
―カラン、カラン
「あの契(ちぎり)は、この世でも護られている。」
―カラン、カラン
「その役を受け継ぐ者は、」
―カラン、カラ…
「お前の、意志さえも受け継いでいるのだろうか。―…月夜(つくよ)。」
雲の切れ間から漏れた月明かりに、白銀がきらきらと輝きを放って照らされていた。
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