170人が本棚に入れています
本棚に追加
From Ryosuke
天気の良い昼下がり。
これと言って文句の言いようが無い、暑くも寒くもない、気持ちの良い昼下がり。
僕は退屈していた。
両親は上流階級の人間だった。
姉と妹の三人兄弟で、全く不自由無く暮らしている。
そう全く不自由なんかなかった。
なのに僕は自由なんかじゃなかった。
両親に家庭教師をつけられ、学校にも行かせてもらえず
必要なことは全てこの屋敷で叩き込まれた。
将来父親の後を継ぐためだ。
僕が望んだことではないけれど、拒む権利もなかった。
いつも同じ事の繰り返し。
だけど今日は少し違った。
いつもならすぐに次の授業の準備をするのだが
久しぶりに自分の部屋まで行って庭が一望出来るバルコニーに出てみた。
庭には桃や桜、色とりどりの花が咲き乱れていた。
木々は庭師によって美しく整えられ、花は最も美しい状態に保たれていた。
シャツにカーディガンといった薄手の服を着ていたが、もう寒くはなかった。
風邪がそよぐと花の匂いがした。
ずいぶん寒くなくなったとは思っていたけど
もうこんなに暖かくなってたのか
空調の効いた室内にずっといたから気づかなかった。
毎日毎日同じ事の繰り返しで
季節の変化なんて特に気にとめなかった。
それにしても外がこんなに気持ちが良いなんて…
僕は次の授業の事なんて忘れて、しばらく目の前に広がる広大な庭を見渡して春の訪れを楽しんだ。
「ふぁあ」
バルコニーの手すりに寄り掛かり腕をまくりながらあくびをする。
「そろそろ授業の時間だよな。さぼっちゃおうかな…」
なんだかまだ、あと少しだけここで春の陽射しを浴びてのんびりしていたい気分だった。
最初のコメントを投稿しよう!