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肌にこの時期特有のジトジトとした冷たい空気が纏わり付く。とても不快だ。
屋根や地面に落ちる水の音も聞こえた。激しくはなく、しかし、弱くもない雨音(あまね)。今日は雨だった。部屋の雨戸は開けられていて、庭に降り注ぐ雨の雫と雨に打たれる木々や庭石が見える。
今は雨期。肌に纏わり付くようなこの空気も、降り続く雨の音も、いつもと何ら変わりはない。たが、今日は何故かいつも通りのはずのその風景と空気の中にいつもと違う空気を感じて、不意にとても嫌な感覚を覚えた。
「近藤さん──……?」
胸騒ぎ、とでも言うのだろうか。頭に近藤さんの姿が思い浮かんで、胸にもやもやとした感情が沸き上がる。それは言いようもないほど重く、大きな不安だ。
「嫌な、予感が……」
僕は慌てて部屋を出た。それとほぼ同時に隣の部屋から慌てた様子で男の人が出てきた。
耳よりは長く、肩よりは短い黒髪の男の人。僕ら“新撰組”の副長、土方歳三さんだ。
「総司……!」
「土方さん……!」
僕と土方さんの声が重なった。
「お前も感じた、のか? 妙に嫌な感覚を」
「はい、何だか胸騒ぎのような……。その時、不意に近藤さんの顔が思い浮かんで──。そうだ! 土方さん、近藤さんはどこですか?」
僕が尋ねると土方さんは眉を緩く下げた。
「俺にも用があってずっと探しているのだが、見付からないんだ……。屯所にはいないようだな……あの人に限ってまさかとは思うが……」
「万が一、と言うこともあります。探しましょう……!」
「そうだな……」
そんなやり取りの後、何人かの隊士を捕まえて近藤さんの行方を尋ねた。そしてある一人の隊士から近藤さんが町外れの林へ向かったことを聞いた。
「どうしてそんな所に……」
「わからんな。とりあえず行くぞ!」
「はい」
僕たちは林へ向かった。
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