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林の中は木が密集している。右を見ても左を見ても、前を見ても後ろを見ても必ず木が見える。
枝葉が繁り、頭上を覆っている。分厚い灰色の雲が空を覆い、陽の光を遮(さえぎ)っているせいでただでさえ薄暗いのに、更に暗くなっている。しかし、空を見上げれば枝葉の間から灰色の空が覗く。
林の中も外も変わらず降り注ぐ雨は枝葉を打ち、自然の調べ奏でながら木々を濡らしている。周りは大きく枝葉を伸ばした立派な木ばかりだが、どこにいても変わらず僕らの肩を濡らす。雨水が染み込み濡れた羽織りや着物たちが直接肌に触れて張り付き、冷たく感じる。どこまでも伸びる枝葉で影になっているためか、辺りの気温は少し低く、少々肌寒く感じた。
「少し寒(さみ)ぃな、大丈夫か」
林の中を駆け足で進みながら土方さんが問いかけて来た。
「僕は大丈夫です。それより、早く近藤さ……、!!」
言いかけたところで、再びあの、妙な感覚に襲われて言葉と足を止めた。けれど今度はさっきみたいな不確かなものではなく、もっと、はっきりしたものだった。同時に抑えようのない不安が胸に広がった。
「土方さん、今……」
僕は耐え切れず、土方さんに声をかけた。土方さんは言葉ではなく、目で“言うな”と言った。僕はそこで口を閉じる。それから、言葉をかける代わりに走る速さを速めた。
***
それから少し走ると木のかげから“新撰組”の羽織りの袖が見えた。土方さんもそれに気付いて、僕たちは走る速度を更に上げる。
──パシャリ、パシャリと水溜まりを踏む音が度々響き、袴や羽織りの裾に何度も汚れた水を跳ねさせながら走り、やがて、近藤さんの全身が見えた。背後の木に背中を預けるような形で寄り掛かり、右手に抜刀された刀を持って俯きなから地面に腰をおろしていた。
しかし。
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