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「──!」
近藤さんの姿がはっきりと見える位置で僕たちは固まり、言葉を失ってしまった。
目の前の近藤さんは傷だらけで左脇腹から衣を紅く染めるほどに血を流し、流れ出た血は雨水で薄まりながらも鮮やかな朱の水溜まりを作っていたからだ。右肩にも傷を負い、流れた血は肩から腕、腕から手首、手首から刀へと伝っている。
──あの近藤さんが、なぜ。
僕は近藤さんのあまりにも痛々しい姿に僕は思わず立ち尽くしてしまう。
「勝(しょう)!!」
数箔間が開いて土方さんが叫ぶようにいった。その声で僕は我に返り、ほぼ同時に土方さんは近藤さんの元へ走り出す。
「近藤さん!」
兄のような存在であり、憧れであり、僕の全てでもあるその人の名を叫んで、駆け寄った。
土方さんが近藤さんを抱き起こして身体を支えて何度も、何度も声をかけたが、近藤さんは返事をしない。土方さんが、苦々しげに舌打ちをした。
「あ……手当をしないと……」
でなければ、血が足りなくなって死んでしまう。僕と土方さんは持っていた使えそうな物を使ってとりあえず止血をこころみるが傷は深くて、血は中々止まらなかった。止血に使った布の類を全て、真紅に染めた。
「まずい……道具がなさすぎる。人出もだ」
土方さんが呟く。
止血薬はないし、包帯や止血に使えそうものももう持っていない。
「だったら……」
僕は羽織りを脱ぎ、羽織りに自分の刀で互い違いに切れ目を作る。そして思い切り裂いた。
裂くのは下に着ている着物でも良いのだが、わざわざ帯を解いてまで脱ぐ時間が惜しかった。
“新撰組”の羽織りを裂くのは心苦しい。それでも、人の命には代えられない。それが近藤さんなら、なおさらだ。
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