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それに、もし近藤さんが同じ立場ならきっと、迷わずに同じ行動を取るだろう。羽織りは、例え裂いてしまっても代わりがあるし、ないとしても作れば済むけれど、命は一つしかないから。
僕は羽織りだったそれを他の布切れなどと一緒に近藤さんの右脇腹の傷に宛てて止血をはかった。当然、土方さんには驚かれたが、僕はあまり気にせず
「近藤さんの命には代えられませんから」
と言った。
「そうだな…」
土方さんはそれだけ言って、僕と同じように羽織りを裂き、止血に使う。
「この状態ではこれが限界だな……」
そう、道具も人出もない今の状態では止血が限界なのだ。
「……医者と隊士を何人か呼んできます。土方さんはここで近藤さんを」
僕は言うだけ言うと、相手の返事も聞かずに半ば無理矢理、土方さんに近藤さんを任せて町へ戻る。
***
それから僕は隊士数人と薬師たちを呼んで戻って来た。
戻って来た時、近藤さんの傷から流れる血は止まり始めていたが、顔色は悪かった。木にもたれる近藤さんの姿はいつものこの人からは考えられないくらい弱々しくて、痛々しくて。
なぜ、こんなことになったのか。なぜ、近藤さんがこんな場所へ独りで来たのか。何もわからなくて、悔しかった。
この人たちは自分が守るのだと誓ったのに、何も出来なかったと言う事実が、とても。
連れて来た隊士たちや医師と、手当をしている間にも、僕はずっとそれを考えていた。
「我々に出来ることはここまでです。後は患者自身の力に任せるしかありません。ただ……」
僕は医師の言葉で我に返る。
「ただ……?」
僕が尋ねると医師は、雨は体力を奪う。あまり動かしてはいけないが、このまま濡らしたままでいるよりはどこかへ運んだ方がよいかもしれない、と続けた。
「なら、屯所に運ぶぞ? 動かしても体力を奪うことになるが……いつ止むかもわからない雨の中、このままの状態でいさせるのもマズイ」
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