好敵手─意志よ続け、後世まで─

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「これからどうするつもりだ?」    木の幹に背中を預けるように寄り掛かり、木の影から一人の男に声をかけた。  オレに背を向けていた男が振り向く。   「君、か……。何故そんなことを聞くんだ?」    赤茶の髪に静かな蒼の瞳。  髪は後頭部で高く束ね、垂らすような髪型だ。降ろせば胸まではあるだろう。    体型は長身細身だが、筋肉質でがっちりしており、その身にまとう羽織りは浅黄色のだんだら模様。背中の部分には『誠』の文字が描かれているが、羽織りは紅い血で濡れ、あちらこちらが破れている。    男が右手に握る一振りの刀の刀身は深紅の雫が伝い、ポタポタと落ち、顔や髪にさえも返り血がついていた。    ──斬り合った後か。    そう思い、視線を周囲へと移せば幾人もの剣客の死体が転がっているのが目に入った。    血、独特の鉄のような香りが鼻を刺激するが気にしないでおく。  もし、嗅ぎ慣れない人間や死体を見慣れぬがこの場にいれば鳴咽感に襲われていただろう。    転がる死体には何処でか見た覚えがある者も混じっている。もっとも、特別な感情など浮かばなかったが。   「何故って、この戦──もう結果は見えてるだろう?」    そう、一年にも渡る旧幕府軍と新政府軍とのこの戦結果は誰が見ても明らかだった。  旧幕府側の藩や組織は次々と降伏し、その幹部たちの多くは捕えられ、何らかの形で処罰されている。  下総流山で投降した、新撰組局長近藤勇も。    近藤勇の最期はこれから訪れる新しい時代としてはある意味当たり前で、しかし、武士としては悲惨だった。武士として切腹することすら叶わず、正当な裁判にかけられ、そして斬首された。その上、その首は三日三晩晒された。  酷いものだ。新政府は相手が自分達と同じ武士であっても、容赦が無い。  それでも、新しい時代を作るために、政府が必要だからオレは戦場に身を投じているのだが。   「そうだな。旧幕府軍(おれたち)は敗れるだろう。だが、理由なく戦地を離れるのは士道不覚悟。  死するその時まで剣に続けるのが俺の貫く士道だ。  『士道に背くまじき事』なんて、法度を定めた本人がその法度を破るわけにもいかないだろう?」   「剣に生き、剣に死ぬ、か……」    相変わらず真面目な男だ。剣客の鑑という言葉がぴったりだが、長生き出来る生き方ではないか。
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