罪の数だけ愛を捧ぐ

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 新しい世界に来て初めて、もといた場所での自分の立場が良く分かるというものである。弁慶は指でそっと髪をすいた。その髪の色は甘い蜜の色。この世界で忌み嫌われる者たちの髪の色とよく似ていた。 「一体いつまでこうしていられるのか……」 彼は望美たちと別れた後、この世界に来た。その理由もわからずに暮らし始めて今日で五日なる。もう季節は春だとはいえども、夜はまだ冷たい風が吹く。山奥でそれを凌げそうな洞窟を見つけ、彼はそこを住居とした。そこは湿気も少なく、過ごしやすい場所だった。もともと修行のために山に籠もることもあったので、日常生活においては特に問題もない。 弁慶はけして人里に向かおうなどとは考えなかった。こちらの世界にきて初めて会った人間には「鬼」といわれ、身に覚えのない悪事のために敵意を向けられた。その出来事から、弁慶はもといた世界よりもずっと昔の世界に来てしまったことを悟ったのだった。昔々、人々は金色の髪を恐れて忌み嫌っていたと書物にあったことを弁慶は思い出していた。
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