罪の数だけ愛を捧ぐ

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「ええ。界隈へ出るのは何かと億劫ですから。……くしゅんっ!」 「そういえば水を浴びていたな。風邪をひくぞ。」 「おや、心配してくれるんですね。確かに冷えましたし、この格好はさすがに恥ずかしい。では、くれぐれも僕の事を言いふらすようなことのないよう」 弁慶のその言葉を最後に、二人は互いに背を向けた。 その日以来、男は度々弁慶の住まう洞窟を訪れるようになった。 「今日も来たんですね。そんなに頻繁に来ると他の人たちに怪しまれませんか?」 「そんなことはどうだっていい!俺はあんたが何者を知りたい」  男がそう問い始めて今日でちょうど二十日目になる。そういうわけで弁慶はウンザリしていた。小さくため息をつき、それから一時もしないうちに自身のことを語り始めた。 「僕は武蔵坊弁慶といい、生まれは熊野です。兄からは武術と学問を、山法師からは仏の教えと法術を、同時に薬師としての知識も得ました。ですが、その他については君に話すつもりはありません」  二人の視線がかち合う。それははっきりとした拒絶だった。だが男にとってその事はさして重要でもなく、ただ一つの可能性を確かめねばならないと何かに駆り立てられていた。 「薬師なのか?……腕はたつのか?」
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