罪の数だけ愛を捧ぐ

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男は弁慶に歩み寄ると弁慶の両肩を強く掴んだ。その力は強く、食い込む指の痛みに弁慶は顔を歪めた。 「え、ええ。腕はたつ方だと思いますけど……」 「あっ、すまん!……つい」 男は慌てて弁慶から手を離す。少々痛む肩には明日痣が浮かぶことだろう。弁慶はジッと男の様子を観察した。 (このままでは人里に下りることになりかねませんね……) 何かしら理由をつけて男が頼むであろうことを断ろうと考える。 「病気の妹がいるんだ」 男がポツリと語り始めた。 (ほら、きた) だが弁慶はだまって男の言葉を待った。 「腕がたつという何人かの薬師にも診せたが治らない。もう親父も諦めた。一度でいいんだ!診てやってくれないか……」 男は項垂れる。最後の言葉はもう聞き取れないくらいにか細かった。 (どうしたものですかね……) こうも男の様子が変わってしまうと、さすがの弁慶も一歩引いてしまう。だが彼は基本的に病人には優しかった。
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