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雅人が、好きだと気付いても俺は何も出来なかった。
兄を傷つけたくなかった。
兄に軽蔑されたくなかった。
ただ傍にいたくて、雅人の存在を確かめたくて、一緒に暮らしていた。
「……アイツ、まめだよなぁ…」
テーブルに置かれた、まだ温かい朝ご飯。それに苦笑しながら、胸に溢れる温かい愛しさ。それと同時に感じるどうしようもない、切なさ。
いっそ離れれば楽になれると思うのに、離れたくなかった。
「お前は主婦かっつーの…」
一人ごねても今は誰もいない、部屋。雅人がいれば、「いい主夫になれるでしょ?」と笑っただろうに。
ラップを剥がし、ひょいと黄色い物体を口に入れた。
それは泣きたくなるぐらい俺好みの味で、胸が痛い。
雅人は俺を理解して、俺は雅人を理解しているのに。
恋人にはなれない。
雅人にとって、俺はどこまでいっても弟だから。
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