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「雅人さー…」
「ん?」
パラリと今日の夕刊をめくった時、大地は何気ない口調でそれを言った。
「彼女作んねぇーの?」
「………うん」
その問に少し驚いて、だけど落ち着いた気持ちで返事は返せた。尚も続けようとする大地が何か言う前に、僕は言う。
残酷なことを聞く弟だな、と内心思いながら。
「うちには手がかかる奴がいますから」
「………誰そいつ」
「お前だよ、馬鹿」
「ひでぇーっ!……つか、まじで俺がいるから彼女作んねぇの?」
「そうでもないけど……。でも今は、……お前との生活をもう少し楽しみたいかな」
「…あ、そう…。…いやー…俺ってば愛されてんのね」
「調子のるな」
「あははっ!」
笑う大地を見て、本当に愛しちゃってるんだよ馬鹿、と胸の中で言った。
好きや愛しさを通り越したその先、そこにあるのはただ大地の幸せを祈る気持ちだけで。
だから、本当に今はこの生活にもう少し浸っていたかった。
大地がただ傍にいて、笑ってくれる生活に。
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